ABOUT MY WORK
幼い頃、土だった地面が少しずつアスファルトで覆われていくのを見て、土や、虫たちと遮断されてしまうことに寂しさと恐ろしさを感じていた。
私は、自分の複雑な感情を言葉で表現することが昔から得意ではなかったので、咀嚼できない感情を表現するために作品を作っていた。2008年、大学進学を機に、ニュータウンのある国道沿いに住むが、アスファルトの道や、無機質なガードレール、マンションやチェーン店の看板、コンクリートで囲まれた街路樹などを見ていると、吐き気や胸の苦しさ、苛立ちなどが込み上げてきた。大学を卒業して2年程経った2016年のあるとき、強烈な孤独が襲ってきて、突然涙が出るようになり、絵が描けなくなった。療養のため一週間程旅をした際に訪れた西表島で、同郷の幼馴染と再開し、広い星空を見て、色とりどりの魚たちと泳いだことで、生きている実感を取り戻した。自然を求める気持ちが高まっていた、翌年の2017年、結婚を機に大分県の山間部に移住する。すぐそばに山があり、野生動物や昆虫や野鳥に囲まれて暮らす日々の中で、森や動物たちの細胞が自身の体に入り込んでくるような感覚があった。
2020年、農業の仕事を探していた時、思いがけず自閉症の施設で働くことになり、利用者と一緒に畑仕事をしたり絵を描いたりして過ごす。大分県で暮らして7年が経った2023年、生きる喜びを取り戻したことで、素直に目の前のものと向き合えるようになり、5年ぶりに活動を再開する。自閉症の方と接するうちに、原始的なものの捉え方について考えるようになり、これまで表現しようとしていた自身の作品の主題と重なっていく。2024年、大分での初個展で、太陽や木、蝶などを単純化して描いた作品を発表する。
世の中の混乱に呼応するように自身も浮き沈みを繰り返していたが、2024年に、「どんな時代が来ても、地に足をつけて生きていく」ことを決意した。それから、身近にあり、コストのかからない素材を使って制作し始めた。近所で採った土で顔料を作成し、卵と酢で描けるテンペラ画を描いた。画布には、地元のもやし工場で廃棄される麻袋を使用した。自分の生きている場所で循環が起こることで、土地と繋がっている安心感を覚えた。
一貫して自分の経験を発端として、この世界の不思議について表現している。私の作品は、「人生」という旅の記録である。
2025